構文木にIdを振りたい。
構文木に情報を追加したいときにFix使うとちょっと楽だよっていう話。
例えば
data Term = Var String | Lam String Term | App Term Term
みたいなデータの各ノードにIdを振りたいとする。
ナイーブにやると
data ITerm = IVar Int String | ILam Int String ITerm | IApp Int ITerm ITerm
こんな感じになるだろうか。
コンストラクタの名前が変わって冗長だ。
これに対してFixを使うとこうなる。
newtype Fix f = In (f (Fix f)) data TermF a = Var String | Lam String a | App a a newtype ITermF a = ITermF (Int, TermF a) newtype Term = Term (Fix TermF) newtype ITerm = ITerm (Fix ITermF)
これなら他に型情報とかを追加したくなってもnewtypeで簡単に追加できる。
Idを振るサンプルは以下のとおり。
cata :: Functor f => (f a -> a) -> Fix f -> a cata f (In t) = f (fmap (cata f) t) incr :: State Int Int incr = do i <- get put $! i + 1 return i assignId :: Term -> State Int ITerm assignId (Term _t) = ITerm <$> cata f _t where f (Var s) = c $ pure $ Var s f (App t1 t2) = c $ App <$> t1 <*> t2 f (Lam x t) = c $ Lam x <$> t c t = In . ITermF <$> ((,) <$> incr <*> t)
newtype同士のキャストがだいぶ煩雑になってしまうのが玉に瑕だ。
詳細なコードは以下のgistにある。
gist0b9f189fd5cf0550903e
let式の構文解析
導入
<digit> ::= [0-9] <alphabet> ::= [a-zA-Z] <int> ::= <digit> | <digit><int> <id> ::= <alphabet> | <id> <expr> ::= <int> | <id> | '(' <expr> ')' | "let" <id> '=' <expr> "in" <expr> | <expr> '+' <expr>
さて、この文法には2つの曖昧性がある。一つは足し算の結合性、もう一つはlet式と足し算の優先順位の曖昧性だ。
1 + 2 + 3 => (+ (+ 1 2) 3) | (+ 1 (+ 2 3)) let x = 1 in 2 + 3 => (let (x 1) (+ 2 3)) | (+ (let (x 1) 2) 3)
ここでは曖昧性を解決するために足し算は左結合とし、足し算がlet式に優先するとしたい。
そのような文法はPEG*2で以下のように表現できる。
INT <- [0-9]+ ID <- [a-zA-Z]+ P <- INT / ID / '(' E ')' / "let" ID '=' E "in" E E <- E ('+' P)*
今回の記事ではこのような文法を曖昧性のない文脈自由文法で定義してみる。
最初の試み
自然に考えられる文法として以下のようなものがある。
<prim> ::= <int> | <id> | '(' <expr> ')' <term> ::= <prim> | <term> '+' <prim> <expr> ::= <term> | "let" <id> '=' <expr> "in" <expr>
この文法は上の二つの例を正しくパーズする。
1 + 2 + 3 => (+ (+ 1 2) 3) let x = 1 in 2 + 3 => (let (x 1) (+ 2 3))
しかし、この文法は期待する言語を表現していない。例えば次のような式をパーズできない。
1 + let x = 1 in x => Error!
次の試み
上の例からprimがlet式を含まなければならないということがわかった。
しかしprim '+' exprとなっている場合はprimがlet式を含んでいてはならない。
つまり、足し算の第2オペランドにlet式が出現できるかどうかを区別する必要が有る。
<atom> ::= <int> | <id> | '(' <expr> ')' <prim> ::= <atom> | "let" <id> '=' <expr> "in" <expr> <term> ::= <atom> | <term> '+' <atom> <expr> ::= <prim> | <term> '+' <prim>
この文法は期待する言語を表現する。
1 + let x = 1 in x => (+ 1 (let (x 1) x)) 1 + let x = 1 in 1 + 2 => (+ 1 (let (x 1) (+ 1 2))) 1 + (let x = 1 in x) + 3 => (+ (+ 1 (let (x 1) x)) 3)
yaccによる動作確認
この文法に曖昧性がないことを確かめるためにyaccに書き下す。
Parsing
yaccがconflictを出さなかったのでこの文法は曖昧でない。
ちなみに動作例。
$ ocamlbuild main.native $ ./main.native 1 + let x = 1 in x + x Plus(1, Let(x, 1, Plus(x, x))) 1 + 2 + 3 Plus(Plus(1, 2), 3) 1 + (2 + 3) Plus(1, Plus(2, 3)) (let x = 1 in let y = 2 in x + y) + 3 Plus(Let(x, 1, Let(y, 2, Plus(x, y))), 3)
yaccのPrecedenceについて
上のようなパーサはyaccのPrecedenceを適切に設定することによっても得ることができる。
gist114a58bce2ab6af47926
このPrecedenceがどう働くかは
http://dinosaur.compilertools.net/yacc/
に記述がある。
The precedences and associativities are used by Yacc to resolve parsing conflicts; they give rise to disambiguating rules. Formally, the rules work as follows:
1. The precedences and associativities are recorded for those tokens and literals that have them.
2. A precedence and associativity is associated with each grammar rule; it is the precedence and associativity of the last token or literal in the body of the rule. If the %prec construction is used, it overrides this default. Some grammar rules may have no precedence and associativity associated with them.
3. When there is a reduce/reduce conflict, or there is a shift/reduce conflict and either the input symbol or the grammar rule has no precedence and associativity, then the two disambiguating rules given at the beginning of the section are used, and the conflicts are reported.
4. If there is a shift/reduce conflict, and both the grammar rule and the input character have precedence and associativity associated with them, then the conflict is resolved in favor of the action (shift or reduce) associated with the higher precedence. If the precedences are the same, then the associativity is used; left associative implies reduce, right associative implies shift, and nonassociating implies error.
要約すると、各ruleの一番最後に現れるtokenのprecedenceをそのruleのprecedenceとし、パーサを構成する過程でconflictが起こったところでprecedenceの高いruleを選択するという仕組みのようだ。
どうにもad-hocに思えてならないのだが、上手くいく裏付けが何かあるのだろうか。
Haskell組み込みDSLでSVGを書く
概要
プログラムで画像を作りたい時に便利そうなのでメモ。
diagrams-svg: SVG backend for diagrams drawing EDSL. | Hackage
これはHaskellでVector画像を描くライブラリである、diagramsライブラリのSVG出力ライブラリとなっている。
diagrams-lib: Embedded domain-specific language for declarative graphics | Hackage
一応githubにチュートリアルっぽいものがあるのだが、
それは型エラーでコンパイルできなかった。
今回は使い方を確認するために有名なフラクタル図形を書いてみた。
シェルピンスキーのギャスケット - Wikipedia
コンパイルと実行
$ ghc --make Sierpinski.hs $ ./Sierpinski -o image.svg 10 5
コマンドライン引数で渡した10と5が図形のパラメータとしてコード中で使用することができて便利だ。
出力される画像はこんな感じになる。
簡単なコード解説
main :: IO () main = mainWith d where d c k = pad 1.1 $ sierpinski c k # lcA transparent # fc (sRGB 0.3 0.3 0.3)
mainWithという関数がdの型から適切にコマンドライン引数をパーズしてdに渡してくれる。
関数dはパラメータcとkをつけとって図形を返す。
ここでcとkはそれぞれ最小の三角形のサイズと再帰の深さを表すパラメータで、
ではsierpinski c kという図形の線の色(lcA)や塗りつぶしの色(fc)を指定して、
1割の余白(pad)を付与する。
sierpinski :: Double -> Int -> Diagram B R2 sierpinski c 0 = triangle c sierpinski c k = let d' = sierpinski c (k-1) l = c * 2^(k-1) z = sqrt 3 / 2 * l / 3 ps = [(0,z*2),(-l/2,-z),(l/2,-z)] in position $ map (\p -> (p2 p,d')) ps
Diagram B R2という型においてBはバックエンドの型(ここではSVG)、R2は2次元画像を意味する。*1
再帰の深さがリミットに達した場合は一辺の長さがcの正三角形(triangle c)を返し、
そうでない場合は、siperpinski図形を生成し(sierpinski c (k-1))、それを3箇所に並べた(position)ものが
siperpinski図形となる。
このようにして図形を代数的にかけるのでとてもイイ感じのライブラリだ。
ELF解析のはじめ
linuxの実行バイナリであるELFファイルの解析の仕方のメモ
IBMのスライドを参考にした。
http://www-06.ibm.com/jp/linux/tech/doc/attachments/002cb129_elf_v1_0.pdf
サンプルELFの作成
まず、サンプルとなるプログラムを用意する。
// func.c #include <stdio.h> int global_num = 0xaa00; int func1( int i ) { return global_num + i; } int func2( int i ) { return global_num + i + i; }
//main.c #include<stdio.h> extern int global_num; extern int func1( int i ); extern int func2( int i ); int main( void ) { printf( "global_num = %04x\n", global_num ); printf( "func1( 0x11 ) = %04x\n", func1( 0x11 ) ); printf( "func2( 0x22 ) = %04x\n", func2( 0x22 ) ); }
$ gcc -O0 -g -c -o func.o func.c $ gcc -O0 -g -c -o main.o main.c $ gcc -o main func.o main.o
解析に入る前に
まず、objdumpを使って逆アセンブルとデータを書き出しておく。
$ objdump -M intel -S main > main.txt $ objdump -s main > main.data
解析
.textセクションの最初から実行されるということなのでそこを見てみる。
Disassembly of section .text: 08048320 <_start>: 8048320: 31 ed xor ebp,ebp 8048322: 5e pop esi 8048323: 89 e1 mov ecx,esp 8048325: 83 e4 f0 and esp,0xfffffff0 8048328: 50 push eax 8048329: 54 push esp 804832a: 52 push edx 804832b: 68 10 85 04 08 push 0x8048510 8048330: 68 a0 84 04 08 push 0x80484a0 8048335: 51 push ecx 8048336: 56 push esi 8048337: 68 42 84 04 08 push 0x8048442 804833c: e8 cf ff ff ff call 8048310 <__libc_start_main@plt> 8048341: f4 hlt 8048342: 66 90 xchg ax,ax 8048344: 66 90 xchg ax,ax 8048346: 66 90 xchg ax,ax 8048348: 66 90 xchg ax,ax 804834a: 66 90 xchg ax,ax 804834c: 66 90 xchg ax,ax 804834e: 66 90 xchg ax,ax
0x8048510, 0x80484a0, 0x8048442というのは
それぞれ__libc_csu_fini, __libc_csu_init, mainの関数ポインタのようだ。
それらを適当にスタックに積んだ後で
__libc_start_main@pltという関数を呼び出している。
__libc_start_main@pltというのはどうなっているかというと、
08048310 <__libc_start_main@plt>: 8048310: ff 25 14 a0 04 08 jmp DWORD PTR ds:0x804a014 8048316: 68 10 00 00 00 push 0x10 804831b: e9 c0 ff ff ff jmp 80482e0 <_init+0x2c>
0x804a014のポインタ先に間接ジャンプしているらしい。
よくわからないのでIBMのスライドを見てみると、共有ライブラリの関数を呼ぶ場合は
実行時に関数ポインタが書き込まれるとのことだ。
gdbで実行してみる。
$ gdb main (gdb) b *0x8048510 (gdb) b *0x80484a0 (gdb) b *0x8048442 (gdb) run Breakpoint 2, 0x080484a0 in __libc_csu_init () (gdb) info stack #0 0x080484a0 in __libc_csu_init () #1 0xb7e2d89a in __libc_start_main (main=0x8048442 <main>, argc=1, ubp_av=0xbfffebd4, init=0x80484a0, <__libc_csu_init>, fini=0x8048510 <__libc_csu_fini>, rtld_fini=0xb7fed5f0 <_dl_fini>, stack_end=0xbfffebcc) at libc-start.c:219 #2 0x08048341 in _start ()
__libc_csu_initが呼び出された。この関数が何をやっているのかはよくわからないので
次に進むとmainが呼び出されている。
main部分は簡単に読むことができた。
KleisliでもArrowしたい。
Haskellの話。
Control.Arrow
というライブラリがあるのだが、自分に取っては
first, second, (***),(&&&)くらいを使うくらいのユーティリティライブラリでしかなかった。
class Category cat where id :: cat a a (.) :: cat b c -> cat a b -> cat a c (>>>) :: Category cat => cat a b -> cat b c -> cat a c a >>> b = b . a class Category a => Arrow a where arr :: (b -> c) -> a b c first :: a b c -> a (b,d) (c,d) second :: a b c -> a (d,b) (d,c) (***) :: a b c -> a b' c' -> a (b,b') (c,c') (&&&) :: a b c -> a b c' -> a b (c,c')
(>>>)は射の合成、first,secondはそれぞれペアの第1要素、第2要素のみを変更する射、
(***)は射の積、(&&&)は一つのソースを二つに分割する射となっている。
最近モナドでfirst, secondを使いたくなるときがあったのでメモ。
具体的には次のようなコードだ
splitBy :: [a] -> Int -> [[a]] splitBy [] _ = [] splitBy l n = hd:splitBy tl n where (hd,tl) = splitAt n l
これはリーダーモナドを使って次のように書ける。
splitBy :: [a] -> Int -> [[a]] splitBy [] = return [] splitBy l = do (hd,tl) <- flip splitAt l tl' <- splitBy tl return (hd:tl')
気持ち的には
splitBy l = fmap (uncurry (:)) $ flip splitBy l >>= second splitBy
のような感じで書きたいのだがsecondの型が合わない。
調べてみると
newtype Kleisli m a b = Kleisli { runKleisli :: a -> m b } instance Monad m => Arrow (Kleisli m)
というinstanceを見つけたのでこれが使えそう。
splitBy :: [a] -> Int -> [[a]] splitBy [] = return [] splitBy l = fmap (uncurry (:)) $ flip splitAt l >>= runKleisli (second (Kleisli splitBy))
これで型もあうのだが、>>=の右側がどうにも格好悪い。
他の例も考えてみてよい補助関数を見つけたいところだ。
ちょまどパズルの下界が8である証明
Intro
問題の発端はこのツイートから
四択の問題が全部で10問あるやつ、解答のパターンは40通りあるって、例のあの顔のカッコいい先輩に教えてもらったし、同期の男の子も40だって言ってたけど、
やっぱり納得できないヽ(;▽;)ノ数学苦手ヽ(;▽;)ノどうしても4の10乗じゃないかって思っちゃう
— ちょまど@新卒文系SE見習い (@chomado) 2014, 6月 18
何回で満点とれる?【ちょまど問題に挑む人々】 - Togetterまとめ
問題を形式化すると、
- 入力として四択問題が10問与えられる。
- 解答を提出すると正解数がフィードバッグされる。
- 任意の入力に対して全問正解するまでに必要な最大質問数を最小化せよ。
決定木について
任意の入力パターン全問正解アルゴリズムは次のような決定木だと考えることができる。
- 各節には提出する解答がラベルされている。
- 各葉には正解がラベルされている。
- 各節からのびる枝は解答に対するフィードバッグに応じてどの節に移るかが記されている。
- 異なる入力が同じ葉にたどり着くことはない。
- 葉に移る最後の質問は必ず全問正解しなければならない。
2択問題3問に対する決定木の例がこの図である。
必要な最大質問数はこの決定木の高さに対応している。(この例では4回)
決定木の高さの見積もり
この木の高さを下から抑えることを考える。四択問題10問の場合、入力パターンは全部で通りあり、葉の数も同数あり、各節から出る枝の数は高々11本なので、
高さの木に含まれる葉の数は高々で、となる最小の
は6なので少なくとも高さは6以上である。また最後の質問は全問正解しなければならないという制約があるので高さが7以上であることもすぐに分かる。
高さが8以上であることを示すにはもう少し踏み込んだ解析が必要である。
いままでの議論は各質問から11通りのフィードバッグがほぼ均等に分布するということを仮定している。しかし、例えば質問をして正解数が10となるのは一通りしかないので、各分岐には大きな偏りがあるはずだ。
まず最初の質問に対してどういう分布をするのかを考えよう。
最初の質問に対してのフィードバッグがであるような入力のパターン数をで表すことにすると、
である。具体的に計算すると
従って、2問正解する分岐が一番多いことが分かる。
2問正解する分岐に対してその高さを見積もることを考えよう。
今パターンの入力がその節に分岐すると仮定しよう。
11通りの分岐すべてに均等に分かれるとするとその節の子供のうち分岐するパターンが最も多いものは通りである。しかし、先ほど見たように正解数10に分岐するパターンは高々一つなのでのこり10通りに均等に分かれると考えると通りとなる。
同様に考えると分岐するパターンが最も多いものは少なくとも
より大きいことが分かる。
この考えで解析していくと
深さiでのノードに分岐するパターン数の最大値は
1048576 -> 295245 -> 45760 -> 6012 -> 698 -> 75 -> 8 -> 1
というような下界を持つ。また、最後パターン数が1になったあとも全問正解するためにもう一回質問が必要になるので少なくとも8回の質問が必要である。
今回の議論もだいぶ粗い解析なのでもうちょっと深く解析すれば下界は改善できるのではないかとおもう。
10パズルを解いてみた。
数式の列挙問題を考えていてよくある例題として四つの数字と四則演算で10を作るパズルを考えていた。
Wikipediaによるとこの問題のことを10パズルというらしい。
wikipedia:10パズル
本来やりたかったのは抽象構文木の列挙だったのだが、この問題は逆ポーランド記法を使うと簡単に書けるようだ。
【Ruby】【アルゴリズム】10パズルを解く。全ての数式を逆ポーランドで作る編 - せかいや
この10パズルの問題は大きく分けて3パターンある。一つは自然数の範囲内で解が存在するもの、二つ目は計算過程で有理数が出現してもよいという条件で解が存在するもの、もう一つは有理数を許しても解が存在しないものだ。
HaskellのListモナドを使えばきれいにこれらの制限をパラメータ化できそうなので実際に書いて解析してみた。
ideoneでの実行結果は以下の通り
http://ideone.com/Z9fOnO
1158,1199,1337,3478は自然数の範囲内では解が存在しないが、有理数の範囲では解が存在するという結果だった。それぞれの解は以下の通り
ちなみに自然数を整数に緩めた(引き算のときに負の数が現れてもよいとする)場合でも結果は変わらない。
電車の広告に難問として載っている物はどうせこれらのうちのいずれかなので覚えておくといいかも。